古物商許可申請は押印不用?印鑑が必要な書類はある?【行政の印鑑・押印文化廃止シリーズ】

古物商許可の申請書類を前にして、「どこにハンコを押すのだろうか」と手が止まる方は意外と多いです。

結論から記載すると、現在は古物商許可の申請書そのものに押印欄はありません。
略歴書にも誓約書にもありません。
昔と違い、押す場所が用意されていないので押しようがないですし、押さなくて問題ありません。

ただし、「古物商許可の手続からハンコが完全に消えた」わけではありません。

申請書に添える書類のうち、いくつかには今も印鑑が必要です。
そしてそこには、なぜ廃止された印と残った印があるのか、理由があります。

この記事では、印鑑という「しるし」の視点から、古物商許可の手続に登場するハンコを一つずつ整理します。

なお、アロー行政書士事務所では古物商許可申請のサポートを行っています。古物商許可申請でお困りであれば利用を検討ください。

※押印の要否や様式の運用は都道府県警察・所轄警察署によって差があります。実際に申請される際は、主たる営業所を管轄する警察署(生活安全課・防犯係)に事前確認をしてください。本記事はあくまで一般的な取扱いを記載するものとなります。

1. いつから古物商許可申請は押印廃止となったのか?

昔から押印不用だったわけではありません。

押印廃止は令和2年12月28日から

政府は「規制改革実施計画」(令和2年7月17日閣議決定)で、行政手続に押印を求めている制度を原則としてすべて見直す方針を決めました。法令・告示・通達の改正まで行う、というかなり強い内容です。

これを受けて警察関係の手続も一斉に切り替わりました。区切りの日付は令和2年12月28日です。

  • 大阪府警察は、令和2年12月28日以降に受理する申請書等の様式について、府民や事業者に署名や押印を求めないこととする、と告知しています(一部様式を除く)。
  • 神奈川県警察も同日を施行日として、申請書等の押印が廃止されたことを公表しています。根拠法令として「銃砲刀剣類所持等取締法施行規則等の一部を改正する内閣府令」(令和2年12月28日公布・施行)を挙げています。

古物営業の申請書の様式は、古物営業法施行規則(平成7年国家公安委員会規則第10号)の別記様式で定められています。この一連の見直しにより、様式から「㊞」のマークが外れました。

旧様式が手元にある場合

見直しの直後には、当然「印マーク付きの古い用紙」が世の中に残ります。これについて神奈川県警察は、次の扱いを示しています。

  • 改正前の様式も当分の間そのまま使える
  • その場合でも押印は不要で、記名で足りる
  • 印マークは二重線などで消す

つまり、古い用紙をわざわざ捨てる必要はなく、㊞を消して出せばよい、ということです。

訂正印も不要になった

見落とされがちですが、書き損じを直すときの訂正印も不要です。

神奈川県警察は、申請書等に誤記があった場合の訂正印は不要であり、訂正したことが明らかになるように二重線などで訂正すればよい、と明記しています。ただし、記載内容が読み取れなくなるような大幅な修正をするときは、新しい用紙に書き直してくださいとも案内されています。

窓口で「ここ違いますね」と言われたときに、印鑑を持っていないと訂正できない――という時代は終わっています。

2. 押印が不要になった古物商関連の書類(一覧)

古物営業法施行規則の別記様式で定められている書類は、いずれも押印欄のない様式になっています。主なものを挙げます。

書類様式
古物商・古物市場主許可申請書別記様式第1号(その1〜その4)
再交付申請書別記様式第4号
変更届出書別記様式第5号
書換申請・変更届出書別記様式第6号
返納理由書別記様式第9号
競り売り届出書別記様式第10号・第10号の2
古物競りあっせん業者営業開始届出書別記様式第11号の2
仮設店舗営業届出書別記様式第14号の2

添付書類のうち、略歴書誓約書も押印不要です。これは法人申請では特に効きます。従来は役員全員と管理者全員が誓約書に押印する必要があり、役員が10人いれば10人分のハンコを集めて回らなければなりませんでした。

「署名」は必要なのか

ここは都道府県で説明の温度差があるところです。

大阪府警察の告知は「署名や押印を求めない」という書き方で、署名(自署)まで含めて不要としています。

一方、愛知県警察は誓約書について、本人が内容を確認したうえで「署名又は記名」をするよう案内しています。
自筆でなくパソコン印字の記名でもよい、という趣旨です。

いずれにしても「本人が自筆でサインしなければ受理されない」という統一ルールがあるわけではありません。
とはいえ警察署単位で運用の違いが出やすい部分なので、法人で役員が多いケースなど、書類の作り方が結果を左右する場面では事前に所轄署へ確認しておくと確実です。

3. それでも古物商許可申請で押印が残る書類

押印廃止は「申請者が公安委員会に提出する法定様式」に対する見直しでした。

そこから外れる書類には、今もハンコが残っています。

(1) 定款の写しの原本証明(奥書)に会社の代表者印

法人で古物商許可を取る場合、現行定款のコピーを添付します。

ただの複写では受け付けられず(地域によるところがあります)、「これは当社の定款の写しに相違ない」という証明を付ける必要があります。

これを奥書、この行為を原本証明と呼びます。

地域等にもよりますが、定款について次のように案内されている場合が多いです。

  • 定款末尾に「以上、原本と相違ありません。」の奥書を入れる
  • コピーを作成した日付、代表者の役職と氏名を朱書きする
  • 代表者印を押印する

何も書いていない地域もありますが、多くの各都道府県警の添付書類の説明では、末尾に「以上、原本と相違ありません」の文言、日付、代表取締役の氏名を朱書きし、代表者印を押したものを提出するよう求めています。

ここでいう代表者印は、法務局に印鑑を提出している、いわゆる会社実印を指すのが通例です。

なお、原本証明の要否や、製本の要求まで求めるかどうかは、警察署によって運用が分かれます。
定款のページ数が多い法人ほど作業量が変わるので、ここも事前確認の価値があります。

(2) 代理人が申請する場合の委任状

本人以外が申請書を持参する場合、委任状が必要です。

大阪府警察は、本人以外が申請書を提出する場合には委任状が必要であること、書式は定まっていないことを案内しています。

滋賀県警察の案内でも、法人役員や管理者などの従業員、家族が申請書を持参する場合には委任状の持参が求められ、これがないと申請を受理できないとされています。

注目したいのは、委任状は古物営業法施行規則に様式が定められていないという点です。実際、都道府県警察が公開している様式一覧に委任状は載っていません。

法定様式ではないので、押印廃止の対象からも外れています。

実務では、委任者の記名押印がある委任状を用意するのが一般的です。

書式が自由である以上、押印がないと受け付けないかどうかも警察署の判断になります。
ここは「押しておいたほうが揉めない」典型例になるかと思います。

行政書士に依頼する場合の委任状も同じ扱いになります。

私がやるときは必ず押印してもらいます。

(3) 営業所の使用承諾書等(現在はこの書類自体がほとんど求められないです)

現在は提出不用という取扱いになっていますが、協力書類として、提出の依頼をされるケースがまったくないわけではなくなっています。

そうした場合において、営業所が賃貸物件の場合、賃貸借契約書の写しや、所有者・管理会社の使用承諾書の提出を求められることがあります。
広島県警察は、営業所を確保していることの疎明資料として、賃貸借契約書の写しや使用承諾書等の提出が必要な場合があると案内しています。

滋賀県警察の資料には、使用承諾書は法律上の必須提出書類ではないが、他人の建物での無断営業を防ぐために提出してもらうものだ、という説明があります。

法定書類ではない=様式もないのでこれも押印廃止の射程外となる可能性があります。
第三者(大家さん・管理会社)の意思表示を示す書面なので、記名押印のかたちで作られるのが通常です。

ただ、実際に申請していて思うのは、求められないケースが多いかなと思います。

なお、これらはあくまで一例です。特殊な申請パターンではこのほかの協力書類が求められるケースもあり、その場合、押印が必要になる可能性はあります。

なぜ押印が残る書類があるのか?第三者が関連する

各書類を並べてみると理屈が見えてきます。

押印が廃止されたのは、申請者本人が公安委員会に提出する法定様式です。
添付書類として住民票、身分証明書、登記事項証明書といった公的証明書が付き、審査の過程で営業所の実地確認まで行われるため、押印がなくても本人確認と意思確認は担保できる、という判断です。

残ったのは、第三者との関係が入り込む書面です。
委任状は「他人に権限を与える」意思表示、使用承諾書は「他人が承諾した」事実、定款の奥書は「代表者がコピーの同一性を証明する」行為です。
いずれも、申請書の記載内容そのものではなく、その周辺で誰かが誰かに何かを示す書面です。

内閣府が令和2年12月にまとめた地方公共団体向けの押印見直しマニュアルでも、認印は個人の認証としての効力が乏しいこと、押印が求められている趣旨は他の手段で代替できる場合が多いことが整理されています。

「ハンコがあるから本人だと分かる」わけではないという前提に立って、代替手段のある場面から順に廃止していった――という流れで見ると、押印が残った書類の性格が分かります。

4. 古物商許可が下りた後、ハンコはどこに出てくるか

申請者側の押印は消えましたが、古物営業の世界から印そのものが消えたわけではありません。

許可証には公安委員会の印が押される

許可を受けると、公安委員会から許可証が交付されます(古物営業法第5条第2項)。その様式は古物営業法施行規則第3条・別記様式第2号(法人は第3号)で定められており、表紙裏には交付年月日と「○○公安委員会」の記載、そして公印が入ります。許可証の異動事項欄にも押印の欄があります。

つまり今回の見直しで消えたのは民間側の押印であって、行政側が権限を示すために押す公印は残っているわけです。印章の役割としては、こちらのほうが本来の姿に近いと言えます。

標識(古物商プレート)に印はない

古物商は、営業所ごとに公衆の見やすい場所に標識を掲示しなければなりません(古物営業法第12条第1項、施行規則第11条、別記様式第13号)。紺色地に白文字の、あの16センチのプレートです。

こちらに印は使われていません。記載されるのは許可証番号、氏名または名称、取り扱う古物の区分です。

5. 押印どころか紙申請も減っていく傾向と予想される

押印廃止からさらに一段進んだ動きがあります。

令和7年12月15日から、警察関係の申請・届出の多くが、デジタル庁が運営するe-Gov電子申請からオンラインで行えるようになりました。それまで使われていた警察庁の「警察行政手続サイト」は、同日をもって運用を停止しています。

古物営業関係の手続も対象に含まれています。

愛知県警察は「古物商・質屋に関するもの」としてe-Gov電子申請の対象手続一覧を公開しています。大阪府警察も対象手続一覧を掲載しており、令和8年6月1日からは生活安全警察の手続(特定金属くず買受業)が追加されています。

ただし、すべてがオンラインで完結するわけではありません。
愛知県警察は、申請の種類によっては書類の原本の提出・提示、手数料の支払い、交付物の受取りのために警察署へ来る必要があると明記しています。
手数料の納付方法も都道府県によって対応状況が異なります。

紙の様式を使わない申請では、そもそも押印という論点が発生しません。
「押印が要るか要らないか」で悩む場面自体が、少しずつ減っていく方向にあります。

なお、執筆時点では電子申請はまだ一般的ではありません(手数料がシステム上で払えない等いくつか理由があります)。ただ、間違いなく今後一般化していくものと考えられますので、行政手続きにおいて押印はどんどん少なくなっていくと予想されます。

6. よくある質問

Q. 認印でいいのか?実印が要るのか?

残っている押印のうち定款の奥書だけは会社の代表者印(法務局に届け出た会社実印)が求められるのが通例です。京都府警察も警視庁も「代表者印」と案内しています。

委任状と使用承諾書は法定様式がないため、印鑑の種類まで指定されていないのが一般的ですが、基本的に代表者印がいいでしょう。
印鑑証明書の添付を求められることも通常はありません。

なお、個人の申請では認印でも大丈夫かと思います。

Q. シャチハタでもいいのか

法令上、シャチハタ(インク浸透印)を禁じる規定はありません。ただし、ゴム印は変形しやすく同一性の証明に向かないことから、証明的な性格の書面では避けられるのが一般的です。定款の原本証明のように「会社実印で」と指定される場面では、そもそも選択肢に入りません。朱肉を使う印を用意しておくのが無難です。

Q. 押印欄のない様式にうっかり押してしまった

様式に押印欄がない以上、押した印は法的な意味を持ちません。書き直すべきかどうかは所轄警察署の判断になるので、提出前に確認してください。

Q. 行政書士に頼むとハンコはどこで必要になるか

依頼者側で押していただくのは、原則として委任状だけです。法人であれば、これに加えて定款の奥書に代表者印をお願いすることになります。申請書・略歴書・誓約書への押印は不要です。

Q. 押印がなくなって本人確認はどうしているのか

古物商許可の添付書類には、住民票の写し、身分証明書(本籍地の市区町村が発行するもの)、法人であれば登記事項証明書が含まれます。これに加えて営業所の実地確認が行われることもあり、標準処理期間は40日程度とされています。押印一つより、はるかに厚い確認が行われている手続です。

まとめ

  • 古物商許可の許可申請書・略歴書・誓約書に押印欄はない(令和2年12月28日から)
  • 訂正印も不要
  • いまも押印が残るのは、委任状/定款の奥書(原本証明)/使用承諾書や確認書等の協力書類で必要となる場合がある
  • 許可証の公印は残っている。消えたのは民間側の押印
  • 令和7年12月15日から古物商許可申請を始めとして警察関連の手続きもe-Gov電子申請が始まり、紙と押印を使わない手続が増えている(執筆時点ではまだ一般化していない)

※押印の要否や様式の運用は都道府県警察・所轄警察署によって差があります。実際に申請される際は、主たる営業所を管轄する警察署(生活安全課・防犯係)に事前確認をしてください。本記事はあくまで一般的な取扱いを記載するものとなります。


参考にした資料

執筆者情報

樋口智大(行政書士)

アロー行政書士事務所の行政書士。
ドローン飛行許可申請や酒類販売業免許申請、古物商許可申請等の許認可取得のサポートをしています。
行政書士になってから紙・電子含めて印鑑と向き合う機会が増えました。また、酒類販売業免許をやっていると海外取引に触れる機会も多いことから、印鑑文化が海外では通用しないこと(サインが基本等)など、印に対するさまざまな経験をしたことにより、逆に興味を持つようになり、このような印鑑に関するブログを運営しております。歴史な好きなこともあり、家紋についても解説しております。