酒類販売業免許申請にハンコは必要?押印する書類はどれ?【行政の印鑑・押印文化廃止シリーズ】

※本記事は執筆時点(2026年8月)の法令および国税庁公表資料に基づく一般的な情報提供であり、個別の申請における取扱いを保証するものではありません。制度・様式は改正される場合があります。実際の申請にあたっては、ご状況等によって変わる場合もあることから、必ず所轄税務署または酒類指導官にご確認ください。本記事の情報を利用したことにより生じた損害について、筆者は一切の責任を負いかねます。

お酒を売るには販売場ごとに税務署長から酒類販売業免許を受ける必要があります。

書類の量は膨大ですが、押印欄がないので初めて申請する方から「どこに何のハンコを押せばいいのか?」と聞かれることがあります。

結論から記載すると、酒類販売業免許の申請書に原則押印は必要ありません。

添付書類として印鑑証明書を求められることも基本的にありません。

実印も認印も、会社の代表者印も原則として申請書には登場しない手続です。

ただし、押印が絶対不用かというとそうとも限りません。状況によっては必要となります。

押す必要があるのが誰なのか?によって変わってくるものもあります。

なお、アロー行政書士事務所では酒類販売業免許申請のサポートを行っております。
手続きの代行はもちろんですが、自己申請をサポートするプラン等もございますので酒販免許申請でお困りでしたらぜひご相談ください。

酒販免許申請で押印が不要になった理由は令和3年度の税制改正

酒類販売業免許の申請書を提出する先は、税務署です。

税務書に提出書類にはかつて押印義務がありました。

国税通則法第124条に、税務書類を提出する者(法人であればその代表者)は押印しなければならない、という規定が置かれていたためです。

確定申告書に押していたあのハンコはこの条文が根拠だったと考えます。

この押印義務の規定が、令和3年度税制改正で削除されました。

令和3年4月1日以降、税務署に提出する申告書・申請書・届出書は、原則として押印が不要です。 酒類販売業免許申請書もその原則の中に含まれます。

国税庁も「税務署窓口における押印の取扱いについて」で同じ内容を公表しています。
押印が引き続き必要とされたのは、次の2つだけです。

  • 担保提供関係書類および物納手続関係書類のうち、実印の押印と印鑑証明書の添付を求めているもの
  • 相続税・贈与税の特例における添付書類のうち、財産の分割の協議に関する書類

どちらも酒類販売業免許とは無関係です。

免許の申請で、この例外に引っかかる書類は出てきません。

酒類販売業免許手引の記載例にも押印欄がない

制度の説明だけでは不安が残ると思うので、実際の様式を見てみます。

国税庁が公開している「一般酒類小売業免許申請の手引」には、申請書と添付書類の記載例、そして白紙の様式例が収録されています。

執筆時点での最新版は令和8年3月改訂です。

酒類販売業免許申請書(様式番号CC1-5104)の申請者欄にあるのは、次の3つだけです。

  • 住所(郵便番号と電話番号を含む)
  • 氏名または名称および代表者氏名
  • そのふりがな

㊞の印も、押印欄の四角もありません。手引に載っている「一般酒類小売業免許申請書の書き方」も10項目にわたって記載方法を説明していますが、押印に触れた項目は一つもありません。
ふりがなの記載漏れには繰り返し注意を促しているのにハンコの話は出てきません。
それが現在の様式です。

誓約書も「署名押印」ではなく「記名」でよい

この手続でハンコの話が一番気になるのは、おそらく誓約書だと思います。

酒類販売業免許の申請では、「酒類販売業免許の免許要件誓約書」(CC1-5104-8)を提出します。過去に免許を取り消されていないか、税金を滞納していないか、一定の罪で罰金刑に処せられていないかといった欠格要件について、該当しないことを誓約する書類です。
法人の場合は、監査役を含む役員全員と支配人の分を、代表取締役が取りまとめて代表して誓約します。

内容としては重い書類です。それでも押印欄はありません。
手引の留意事項には、「申請者は、自己の誓約内容とともに、法定代理人や役員、支配人の誓約内容についてもすべて自ら確認したうえで記名」してください、と。

「署名押印」でも「自署」でもなく「記名」です。
記名は自筆である必要がありません。パソコンで氏名を印字したものでも、ゴム印でも記名です。
誓約書として最も厳格になりそうな書類が、印字だけで足りる建て付けになっています。

印鑑証明書は最初から添付書類に入っていない

添付書類の一覧も見ておきます。
一般酒類小売業免許の場合、申請書本体(次葉1から6まで)に加えて提出するのは、次の書類です。
※状況によって添付書類等は変わってきますが、概ね以下の書類です。

  • 酒類販売業免許の免許要件誓約書
  • 申請者の履歴書(法人は監査役を含む役員全員分)
  • 定款の写し(法人の場合)
  • 地方税の納税証明書
  • 契約書等の写し(賃貸借契約書、請負契約書など)
  • 最終事業年度以前3事業年度の財務諸表
  • 土地および建物の登記事項証明書
  • 申請書チェック表

印鑑証明書は、どこにもありません。会社設立の定款認証や不動産の登記申請では当たり前に登場する書類が、この手続には最初から存在しないのです。

これは押印廃止で消えたのではありません。もともと求められていませんでした。

税務署が確認したいのは、申請者が免許の要件を満たしているかどうかであって、書類に押された印影が本人の実印かどうかではないからです。

要件を確認するための資料は、納税証明書、財務諸表、登記事項証明書といった第三者が発行する書類のほうで揃えることができます。

実印と印鑑証明書という本人確認の仕組みをこの手続は最初から使っていないわけです。

押印が必要な書類はある

ここまで「押印は不要」と書いてきましたが、実際に申請書一式を作ると押印があった方がいい書類というのもあります。

申請者本人が押すハンコ:代理人に依頼する場合の委任状のみ

申請書、次葉1から6、誓約書、チェック表。自分で作成して提出する書類に、押す場所はありません。
ただし、行政書士等へ申請を依頼する場合は委任状に押印が必要です。

取引の相手方が押したハンコ

販売場が賃借物件であれば、賃貸借契約書の写しを添付します。
賃貸人と所有者が異なるのであれば使用承諾書が必要となります。
建物が未建築なら請負契約書の写しです。
これらの契約書には、貸主と借主、あるいは注文者と請負人の押印があるのが普通です。
ただしこの押印は、税務署が求めているものではありません。
契約書に当事者が記名押印する日本の商慣行の結果、たまたま押印済みの書面が添付されているだけです。契約書に押されたハンコの意味についてはテーマが異なるので省略しますが、こうした書類には押印が残ります。
※使用承諾書等も押印が絶対に必要であるということではありません。

第三者や役所が押したハンコ

地方税の納税証明書には都道府県や市区町村の証明印が、登記事項証明書には登記官の証明印が押されています。
融資を受ける予定ならば金融機関の融資証明書が必要になりますが、これらにも発行元の印が入っています。
これらは証明する側が自分の責任で押す印であって、申請者が用意するハンコではありません。

つまり、この手続でハンコが残っているのは「自分が押す欄」ではなく「他人が押した書面を集めてくる部分」だけです。
押印廃止の後に何が残ったのかを見るには、なかなかわかりやすい構造をしています。

取引承諾書や3,000KL未満証明書も押印不用だが担当官によっては求めてくるため事前に確認した方がいいかもしれない

酒類卸売業免許を申請する際には取引承諾書の提出が求められますが、これも押印なしのものを提出して問題ない場合もあれば、審査官によっては押印を求めてくる場合があるようです。

個人的には基本的に押印をもらうようにしていますが、絶対的なものではないと考えられます。

なお、海外取引の場合はそもそも押印の文化がないので、必然的にサインとなります。

代理人に頼む場合は「書面での証明」が要る

行政書士などの代理人が申請書を提出する場合の話も書いておきます。

押印義務が削除されたのは国税通則法第124条のうち押印を定めた部分ですが、同条第1項の別の部分は残っています。

代理人によって税務書類を提出するときは、その代理人の氏名と住所も併せて記載しなければならない、という規定です。そしてこの代理人は「代理の権限を有することを書面で証明した者に限る」と括弧書きされています。

ハンコは要らなくなりましたが、代理権を書面で証明することは求められたままです。
実務上は委任状がその書面に当たります。

なお、酒類販売業免許申請の手引には、委任状の様式は収録されていません。委任状にどこまでの記載を求めるか、押印を求めるかどうかは、所轄税務署ごとの運用に委ねられている部分があります。代理を依頼する場合は、事前に確認しておくのが確実です。

作成の必要のある書類ごとの押印の有無まとめ

押印不用な書類

  • 酒類販売業免許申請書
  • 次葉1 販売場の敷地の状況
  • 次葉2 建物等の配置図
  • 次葉3 事業の概要
  • 次葉4 収支の見込み
  • 次葉5 所要資金の額及び調達方法
  • 次葉6「酒類の販売管理の方法」に関する取組計画書
  • 酒類販売業免許の免許要件誓約書※押印ではなく記名でよい(PC入力でOK)
  • 申請者の履歴書
  • チェック表
  • 酒類販売管理者選任(解任)届出書

押印が求められる可能性のある書類

  • 使用承諾書(賃貸人と所有者が異なる場合における使用承諾書等)
  • 取引承諾書(海外取引の場合はサイン等)
  • 3,000KL未満証明書

なお、トラブルを避ける意味でも使用承諾書や取引承諾書は押印もらっておいた方が安全でしょう。

基本的にほとんどの書類で押印不要です。

e-Taxで申請する場合を補足しておきます

酒類販売業免許の申請は、e-Tax(国税電子申告・納税システム)でも提出できます。

電子申請の場合、そもそも押印欄が存在しません。申請データには利用者が電子署名を行うため、事前に電子証明書を取得しておく必要があります。紙のハンコに対応するのが電子署名だと説明されることが多いのはこの部分です。

添付書類も、イメージデータ(PDF形式)で提出できます。登記事項証明書については、登記情報提供サービスの照会番号を申請書に入力することで、書面の添付に代えることも可能です。ハンコどころか、証明印の押された紙そのものが不要になっていく方向にあります。

ただし、e-Tax自体が使いにくく、酒販免許申請をする場合においてはPCにインストールする必要があるので、ほとんどが紙申請なのかなと思います。

よくある質問

申請書に押してしまいました。出し直しですか。

その必要はありません。押印は求められていないだけで、押してはいけないわけではありません。国税庁も、押印欄のある旧様式をそのまま使ってよいとしています。

押すとしたら実印と認印のどちらですか。

どちらでも構いません。そもそも求められていないので、実印である必要はまったくありません。この手続で実印を使う場面は存在しないと考えて差し支えありません。

スタンプ印(いわゆるシャチハタ)でもいいですか。

押印自体が不要なので、問題になりません。一般論として、押印を求める書類でスタンプ印が敬遠されるのは、大量生産の既製品で同じ印影のものが多数存在すること、ゴムやインクが変形・変質しやすく印影が安定しないことが理由です。この点は印鑑登録の要件とも関係するので、別の記事で詳しく書いています。

法人が申請する場合、会社の実印は要りますか。

要りません。申請書に記載するのは会社名と代表者氏名だけです。会社実印(代表者印)も角印も使いません。社内の決裁として押印する運用はもちろん自由ですが、それは社内文書としての話で、税務署に対する要件ではありません。

免許を取った後の手続はどうですか。

同じく押印は不要です。酒類販売管理者選任(解任)届出書、異動申告書、酒類の販売数量等報告書、酒類蔵置所設置・廃止報告書なども、様式にあるのは届出者の住所と氏名(名称)だけです。これらの届出もe-Taxで行えます。

なぜ酒類販売業免許ではハンコが早く消えたのか

行政手続の押印見直しは2020年に政府全体で進められました。

ただ、分野によって進み方には差があります。税務関係の書類は、毎年の税制改正という決まったサイクルに載せることができたため、令和3年4月1日という明確な日付で一斉に切り替わりました。制度改正の受け皿があったぶん、動きが早かった分野だといえます。

そして、国税の中で押印が生き残った例外を見ると、線の引かれ方がよくわかります。

残ったのは、担保の提供や物納といった財産権の移転に直結する書類と相続財産の分割協議に関する書類でした。財産が誰から誰に移るのかを確定させる場面だけ実印と印鑑証明書が残されたわけです。

酒類販売業免許は、この線の反対側にあります。

免許は営業する資格を与える処分であって、財産が動くわけではありません。要件を満たしているかどうかは、納税証明書や財務諸表といった客観的な資料で確認できます。
本人の意思を印影で担保する必要が構造的にないとも考えることができます。

まとめ

  • 酒類販売業免許申請書に押印は不要。令和3年4月1日以降、税務書類の押印義務は原則として廃止された
  • 免許要件誓約書も「記名」で足りる
  • 印鑑証明書は添付書類に入っていない。押印廃止で消えたのではなく、もともと使われていない
  • 押印欄のある古い様式を使ってもよい。押してしまっていても問題ない
  • 書類に残っている印影は、契約の相手方や証明書の発行元が押したもので、申請者が押すハンコではない
  • 代理人が提出する場合、押印は不要だが、代理権を書面で証明することは今も必要

参考資料

※本記事は執筆時点(2026年8月)の法令および国税庁公表資料に基づく一般的な情報提供であり、個別の申請における取扱いを保証するものではありません。制度・様式は改正される場合があります。実際の申請にあたっては、ご状況等によって変わる場合もあることから、必ず所轄税務署または酒類指導官にご確認ください。本記事の情報を利用したことにより生じた損害について、筆者は一切の責任を負いかねます。

執筆者情報

樋口智大(行政書士)

アロー行政書士事務所の行政書士。
ドローン飛行許可申請や酒類販売業免許申請、古物商許可申請等の許認可取得のサポートをしています。
行政書士になってから紙・電子含めて印鑑と向き合う機会が増えました。また、酒類販売業免許をやっていると海外取引に触れる機会も多いことから、印鑑文化が海外では通用しないこと(サインが基本等)など、印に対するさまざまな経験をしたことにより、逆に興味を持つようになり、このような印鑑に関するブログを運営しております。歴史な好きなこともあり、家紋についても解説しております。