電子契約サービスを比較しようとして、料金表と機能一覧を並べたページをいくつも見た。それでも決められない。
そういう方に向けた記事です。
先に、この記事のいちばん重要な結論をお伝えします。
「どのサービスが一番いいか」という問いの立て方が間違っています。 正しくは、「自社が締結する契約の重さに、どのサービスが釣り合うか」です。
これは私の意見ではなく、政府の見解でもあります。デジタル庁・法務省が公表している電子署名法第3条に関するQ&Aには、こう書かれています。
各サービスの利用に当たっては、締結する契約等の重要性の程度や金額といった性質に鑑みて、裁判において真正な成立の推定が得られない場合に利用者に生ずる損害等を考慮した上で、適切なサービスを慎重に選択することが適当。
つまり国が「契約の重さで選び分けろ」と言っています。この視点で見ると、比較表の眺め方が変わります。
この記事では、料金表には現れない5つの判断軸を解説します。
なお、あくまで見解の1つに過ぎないものとなりますので、本記事は参考程度にご覧ください。自社の運用・状況・契約内容によって異なる場合があるからです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。電子署名の法的効力に関する最終的な判断は、個別の事案における裁判所の判断に委ねられます。サービスの料金・機能は変更されることがありますので、最新の情報は各サービスの公式サイトでご確認ください。記載の制度は執筆時点の情報に基づきます。
電子契約には2つの方式がある
判断軸の前提として、ここを押さえてください。

立会人型(事業者署名型)
利用者の指示を受けて、サービス提供事業者が自社の署名鍵で暗号化等を行う方式です。現在広く使われているクラウド型の電子契約サービスは、多くがこの方式です。
利用者側が電子証明書を用意する必要がなく、相手方はメールを受け取って画面上で同意するだけ。導入のハードルが低いのが最大の利点です。
当事者型
契約者本人の署名鍵で署名する方式です。あらかじめ認証局から電子証明書の発行を受ける必要があります。
本人性の立証はしやすくなりますが、契約の相手方にも証明書の取得を求めることになり、手間とコストが生じます。
立会人型でも法的に大丈夫なのか
ここが多くの方の不安だと思います。答えは、条件を満たせば推定が及びうるです。
電子署名法第3条は、電磁的記録について本人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る)が行われているときは、真正に成立したものと推定する、と定めています。
事業者の鍵で署名する立会人型がこの要件を満たすのか、という論点について、デジタル庁・法務省のQ&Aは次のように整理しています。
立会人型のサービスが十分な水準の固有性を満たしていると認められるには、
- ① 利用者とサービス提供事業者の間で行われるプロセス
- ② ①における利用者の行為を受けて、サービス提供事業者内部で行われるプロセス
のいずれにおいても十分な水準の固有性が満たされている必要がある、とされています。そして、一方だけが十分でも、全体として不十分なら固有性は認められないとも明記されています。
この整理を知っているかどうかでサービスの見方が変わります。以下の判断軸は、ここから導かれるものです。
判断軸① 利用者側の認証はどれだけ強いか
政府Q&Aが挙げる①のプロセス、つまり「その人が本当に操作したのか」を担保する部分です。
Q&Aは、次のような2要素認証を行っている場合は十分な水準の固有性を満たすと評価され得る、と例示しています。
- 登録済みのメールアドレスとログインパスワードの入力に加えて、SMSや手元のトークンで取得したワンタイムパスワードを入力する
- 登録済みのメールアドレスに配信された時限アクセスURLへのアクセスと、署名用トークンアプリをインストールしたスマートフォンによる認証
- 専用システムのID・パスワードによるアクセスと、配布されたトークンデバイスによる認証
ただし重要な補足があります。2要素認証が必須というわけではなく、他の方法によることを妨げないとも書かれています。
チェックすべきこと:検討中のサービスが、メールのリンクをクリックするだけで署名が完了する仕様なのか、追加の認証を挟めるのか。オプションで2要素認証を有効化できるサービスもあります。その設定を使うかどうかは自社の判断なので、「機能があるか」と「実際に使う運用にするか」を分けて考えてください。
判断軸② 事業者内部の処理は信頼できるか
政府Q&Aが挙げる②のプロセスです。利用者からは見えない部分ですが、こちらも要件とされています。
Q&Aが例示しているのは、次のような点です。
- アクセスや操作のログが正しく記録され、改ざんや削除ができない仕様であること
- 運用担当者による不正ができないシステム設計・運用設計がされていること
- 正しく運用されていることが監査等で確認されるとされていること
- 必要に応じてログや監査の記録、システム仕様書等を提出できるよう、十分な期間保存するとされていること
チェックすべきこと:サービスのサイトに、第三者認証(ISMSなど)の取得状況、監査の実施、ログの保全方針が書かれているか。書かれていないサービスは、この観点で評価しづらいということになります。
なお、多くのサービスは「3条Q&Aの要件を満たしている」と自社で説明しています。それ自体は参考になりますが、最終的にある電子署名が3条の電子署名に該当するかは、個別の事案における裁判所の判断に委ねられるとQ&Aも述べています。「政府お墨付き」と読み替えないよう注意してください。
判断軸③ 身元確認をどうするか
ここは2024年(令和6年)の改定で新設された部分で、実務的に重要です。
改定後のQ&Aには、サービス提供事業者が利用者の身元確認を行うことは、電子署名法第3条の推定効の要件として必ず求められているものではないと明記されました。
一方で、身元確認は「電子契約サービスの利用者と電子文書の作成名義人が同一であることの有効な立証手段の一つとなり得る」ともされています。取引の当事者同士で身元確認を行っている場合も同様です。
さらに、Q&Aは正直にこうも書いています。現状では必要な基準についての裁判例の蓄積が十分でなく、身元確認の水準や防御レベルが低い場合には、実際の裁判において真正な成立を推定するためには不十分であると判断される可能性がある。
つまり、「要件ではないが、あったほうが強い。そして基準はまだ固まっていない」というのが現在地です。
チェックすべきこと:身元確認のオプション(本人確認書類の提出、マイナンバーカードによる確認など)を用意しているサービスかどうか。重要な契約だけそのオプションを使うという運用ができるかどうか。
判断軸④ 相手方の負担はどれだけ小さいか
法的な話が続きましたが、実務でいちばん導入の成否を分けるのはここです。
どれだけ高機能でも、契約の相手方が「使い方が分からない」「アカウントを作りたくない」と言えば、その契約は紙に戻ります。
チェックすべきこと:
- 相手方はアカウント登録なしで署名できるか
- 相手方に費用が発生しないか
- スマートフォンだけで完結するか
- 操作説明の資料が用意されているか(そのまま取引先に送れるか)
当事者型が「法的に強い」からといって全社的に採用すると、相手方に証明書の取得を求めることになり、導入が進まないという事態になりがちです。この点は、法的な強さと実務的な使いやすさが真正面から衝突する部分です。
判断軸⑤ 契約書のその後をどう扱うか
締結は入口にすぎません。運用で効いてくるのは、締結後の管理です。
チェックすべきこと:
- 電子帳簿保存法の保存要件に対応しているか(検索要件を満たす形で保存できるか)
- 契約期限や更新日のアラート機能があるか
- 検索性(相手方名、契約種別、金額などで探せるか)
- 権限管理(誰が送信でき、誰が承認するか)
- 既存の会計ソフトや業務システムと連携するか
- 解約したときに、締結済みの契約書データを取り出せるか
最後の項目は見落とされがちですが重要です。サービスを乗り換える可能性を考えれば、データのエクスポートができるかは最初に確認しておくべき点です。
契約の重さで選び分ける——政府Q&Aの実践
以上の軸を踏まえて、冒頭の結論に戻ります。

Q&Aは、電子文書の成立の真正は3条の推定効のみで判断されるものではなく、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果をしん酌して、自由な心証により裁判所が判断する(民事訴訟法第247条)ものだ、とも述べています。
そして、身元確認が高い水準で行われていなかった場合でも、契約当事者間における電子文書の成立過程を裏付ける証拠等が提出できれば、それらも有効な立証手段となり得るとしています。
これは実務的に大きな意味を持ちます。メールのやりとりや発注の経緯が残っている継続的な取引なら、電子署名の推定効だけに頼る必要はないということだからです。
したがって現実的な選び分けはこうなります。
立会人型で足りる契約:継続的な取引先との定型契約、金額の大きくない業務委託、注文書・注文請書、雇用契約や社内の同意書など。やりとりの記録が別途残っているもの。
慎重に選ぶべき契約:金額の大きい売買・請負、長期の賃貸借、連帯保証を伴うもの、初めて取引する相手との契約。争われたときの損害が大きいもの。
判断の順番は、①締結する契約の一覧を作る →②争われたときの損害の大きさで仕分ける →③大半を占める契約に合うサービスを選ぶ →④重い契約だけ別扱いにする。
重い契約に合わせて全部を高機能にすると、費用も相手方の手間も膨らみます。 逆に、一番安いプランで統一して重要な契約まで流し込むのは、政府Q&Aが警告している状態そのものです。
料金の見方——記事末の注意点
料金体系は「月額基本料+送信1件あたりの従量課金」というかたちが一般的です。無料プランや試用期間を用意しているサービスもあります。
比較するときのポイントは3つです。
- 送信件数の見積もりを先に出す。年間の契約締結件数が分からないまま料金表を見ても比較になりません
- ユーザー数の課金方式を確認する。人数無制限のサービスと、ID単位で課金されるサービスがあります
- オプション料金を含めて計算する。身元確認、当事者型署名、保管容量などが別料金のことがあります
そのうえで、印紙代の削減額と比べてください。損益分岐の考え方は別記事で解説しています。
具体的な料金と機能は改定が頻繁です。 この記事では意図的に個別サービスの価格を載せていません。候補を2〜3社に絞ったうえで、必ず各社の公式サイトで最新の料金を確認してください。
よくある質問
Q. 立会人型は「他人でも押せてしまう」から危険だと聞きました。
メールを受け取った人が本人かどうかが担保されない、という指摘です。だからこそ政府Q&Aは、利用者側の認証(2要素認証など)と事業者内部の処理の両方に十分な水準の固有性を求めています。認証を強化する設定があるサービスなら、そのリスクは相当に下げられます。
Q. 無料プランで契約を締結しても問題ありませんか?
法的に無料プランだから効力が落ちる、ということはないと考えます。ただし無料プランは送信件数や機能に制限があり、認証強化や保存機能が使えないこともあります。契約の重さに対して機能が足りているかで判断してください。
Q. 相手方が「電子契約は受け付けられない」と言っています。
社内規程の問題であることが多いので、法的な議論では解決しません。押印の省略を提案する、紙で対応する、といった選択になります。押印の代替手段については政府の「押印についてのQ&A」が参考になります。
Q. 建設工事の請負契約でも使えますか?
使えますが、建設業法により、あらかじめ相手方の承諾を得る必要があります。承諾を取得・記録する運用まで含めて設計してください。
Q. サービスを乗り換えたら過去の契約書はどうなりますか?
エクスポート機能の有無に依存します。契約書は長期保存が必要な書類なので、導入前に確認すべき最重要項目のひとつです。
Q. 結局、どのサービスを選べばよいですか?
締結する契約の内容によります。この記事の5つの軸で自社の要件を書き出し、候補を絞ったうえで、各社の無料プランや試用期間で実際に社内と取引先に使ってもらうのが確実です。カタログ比較より、相手方が迷わず署名できるかどうかのほうが導入の成否を分けます。
自社でしっかり検討しましょう。
まとめ
- 選ぶ基準は「どれが一番いいか」ではなく、締結する契約の重さに釣り合うか。政府Q&Aも契約の重要性や金額を考慮して慎重に選択することが適当としている
- 立会人型でも、利用者側の認証と事業者内部の処理の両方で十分な水準の固有性が認められれば、電子署名法3条の推定が及びうる。一方だけでは不十分
- 身元確認は3条の推定効の要件ではないが、有効な立証手段になり得る。基準についての裁判例はまだ蓄積が十分でない
- 判断軸は5つ——①利用者側の認証 ②事業者内部の処理 ③身元確認 ④相手方の負担 ⑤締結後の管理
- 実務で導入の成否を分けるのは、多くの場合④相手方の負担
- 成立の真正は3条の推定だけで決まるわけではなく、やりとりの記録も立証手段になる(民訴法247条)
- 料金は改定が頻繁。候補を絞ったら公式サイトで最新情報を確認する
電子契約サービスの比較記事は、たいてい機能の多さで序列を付けます。
しかし本当に必要なのは、自社の契約に対して過不足のない水準を見極めることです。過剰なら費用と手間が増え、不足なら万一のときに困る。その物差しを、政府の文書は意外なほどはっきり示してくれています。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。電子署名の法的効力に関する最終的な判断は、個別の事案における裁判所の判断に委ねられます。サービスの料金・機能は変更されることがありますので、最新の情報は各サービスの公式サイトでご確認ください。記載の制度は執筆時点の情報に基づきます。
