「印鑑証明書を出してください」と言われたけど何に使われる?渡す前に確認したい5つのこと

不動産屋から。
車のディーラーから。
親族から。
勤務先から。

印鑑証明書を求められて、なんとなく不安になったことはありませんか。

役所でわざわざ取ってくる書類だし、実印の印影が載っている。渡して大丈夫なのだろうか、と。

先に結論をお伝えします。

印鑑証明書だけを手に入れても、他人はほとんど何もできません。

危険なのは、印鑑証明書そのものではなく、実印を押した書類とセットになったときです。しかもその書類に空欄が残っていた場合が本当に怖いケースです。

この記事では、印鑑証明書が何を証明しているのか、どういう組み合わせが危ないのか、そして渡す前に確認しておきたい5つのことを解説します。

なお、求められること自体はごく普通のことです。

この記事は「渡すな」という話ではなく、「確かめてから渡そう」という話です。

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。印鑑登録証明書の記載事項や取扱いは市区町村により異なる場合があります。不正利用の疑いがあるなど具体的なトラブルについては、弁護士等の専門家にご相談ください。本記事の情報に基づく判断・行動により生じた損害について、当サイトは責任を負いかねます。

印鑑証明書は何を証明している書類なのか

まず、この書類の役割を正確に理解しておきましょう。

たとえば、東京都江東区では、印鑑登録証明書についてこう説明しています。

印鑑登録は印鑑登録が「本人の意志に基づくものであること」により登録されることから、印鑑登録証明書を文書に添付することにより、「本人の意志」を確認する手段として利用されている、と。

つまり印鑑証明書は、「この書類は確かに本人の意志で作られたものです」と裏書きするための道具です。

契約書に押された印影と印鑑証明書に印刷された印影を突き合わせる。一致すれば、その書類は本人が納得して作ったものと考えられる、この仕組みが日本の重要な取引を支えています。

だからこそ、印鑑証明書は「本人の意志」を作り出す力を持ってしまうということです。

ここが前提となります。

印鑑証明書だけでできること・できないこと

証明書だけではできないこと

  • 勝手に契約を結ぶ:契約書には実印の押印が必要です。証明書だけでは押印できません
  • 勝手に口座をつくる:本人確認の仕組みが別にあります
  • あなたの実印を手に入れる:印影は載っていますが、印鑑そのものが手に入るわけではありません

「印鑑証明書を渡したら財産を取られる」といった話を見かけることがありますが、それ単体では成り立ちません。 実印を押した書類が必ずセットで必要になります。

ただ、だからといって絶対安心というわけでもないので、証明書は慎重に取り扱う必要があります。

渡した相手に伝わる情報

印鑑証明書には、次の情報が記載されます。

  • 住所、氏名、生年月日
  • 登録した実印の印影
  • 旧氏や通称(登録している場合。江東区の案内では、登録されている場合は省略できないとされています)

3つ目は見落とされがちです。旧姓を住民票に併記している方が印鑑証明書を提出すると、旧姓が相手に伝わります。仕事上の理由で旧姓を使い分けている方は、この点を意識しておいたほうがよいでしょう。

なお、性別欄については、多くの自治体が令和元年前後に廃止しています(国分寺市、佐倉市、福井市など)。

いずれにせよ、印鑑証明書はそれ自体が個人情報のかたまりです。「誰にでも配ってよい書類」ではありません。

本当に危ないのはこの組み合わせ

実印を押した「空欄のある書類」+ 印鑑証明書。

これが危険な状態です。具体的には、

  • 白紙委任状(委任事項や委任先が空欄のもの)
  • 金額が記入されていない契約書
  • 用途が書かれていない同意書

こうした書類に実印を押して印鑑証明書を添えて渡すと、後から相手が空欄を埋めることで、あなたが意図しない内容の書類が完成してしまいます

しかも、そこには本物の実印の印影と印鑑証明書が付いている。裁判で「そんな内容には同意していない」と主張しようとしても、実印による押印がある文書は本人の意思で作成されたと推定されるため、それを覆すのは容易ではありません

繰り返しになりますが、印鑑証明書だけではなく、一緒に押す・渡す書類にも注意してください。

なお、たまに聞く話として、相続手続きで必要だから「実印そのもの」と「印鑑証明書」を渡してくれ、などと業者等から言われたらかなり警戒してください。

印鑑証明書が正当に求められる場面

なお、注意は必要ではあるものの、あらゆる契約の場面で実印と印鑑証明書の提出が求められます。

不安を煽りたいわけではないので、正常なケースも確認しておきます。

たとえば練馬区は、印鑑登録証明書について「不動産の登記、自動車の登録、公正証書の作成などに使用されます」と案内しています。実務でよく登場するのは次のような場面です。

  • 不動産の売買・登記(売主側は発行後3か月以内のものを求められます)
  • 普通自動車の購入・売却・廃車(軽自動車等一部不要な場合あり)
  • 遺産分割協議(相続人全員が実印を押し、印鑑証明書を添付するのが原則)
  • 公正証書の作成(遺言など)
  • 住宅ローンなどの金銭消費貸借契約、連帯保証
  • 会社設立(発起人・取締役の個人の印鑑証明書)

これらの場面で求められるのはまったく正常なことです。むしろ求められない取引のほうが不自然な場合もあります。
※補足:近年電子契約も増えており、別の手立てで本人証明をするケースもあり、必ずしも印鑑証明書が必要というわけではなくなってきております。

印鑑証明書を渡す前に確認したい5つのこと

そのうえで、印鑑証明書を渡すことに不安がある場合は、渡す前にこれだけは確認してください。

① 何の手続きに使うのか

「〇〇の所有権移転登記のため」「相続の預金解約手続きのため」と具体的に答えられるか

「一応必要なので」「決まりですので」としか言わない相手には、渡す前にもう一歩踏み込んで聞いてください。

正当な用途があるなら、必ず具体的に説明できます。

② 何通必要なのか

余った証明書は相手の手元に残ります。

手続きごとに必要な通数は決まっているので、必要な数だけ渡してください。これが基本です。

③ いつ使うのか

多くの提出先が「発行後3か月以内」を求めます。裏を返せば、手続きの直前に取るのが正解です。

「近いうちに使うので先に預かっておきます」という求めには応じないほうが賢明です。

手続きの日程が決まってから取りに行けば済む話です。

④ 一緒に押す書類に空欄はないか

ここはしっかりと確認してください。

  • 委任状を出す場合はの委任事項・委任先が明確になっているか
  • 契約書であれば金額、日付、相手方が記入されているか
  • 「後で埋めておきます」と言われていないか(白紙の部分があると危ない)

空欄がある書類には押さない。

これを徹底するだけで、印鑑証明書をめぐるトラブルの大半は防げます。

やむを得ず先に押す必要がある場合は、空欄に斜線を引く押印前の書類をコピーまたは撮影して手元に残すといった自衛をしてください。

⑤ 使い終わったらどうするか

返却してもらうのか、破棄してもらうのか。先に決めておくと、余った証明書が宙に浮きません。

「手続きが終わったら返してください」と一言添えるだけで、相手の扱いも慎重になります。

正当な相手であれば、この5つはその場で答えられます。 逆に、答えを濁す相手は、それ自体が判断材料になります。

特に注意したいケース

「実印も一緒に預けてください」

これは原則応じないでください。

代理で手続きをする場合でも、必要なのは押印済みの書類と印鑑証明書であって、実印そのものではありません。実印を預けるということはどんな書類にでも押せる権限を渡すのと同じです。

同様に、印鑑登録証(カード)を預けるのも慎重に

カードがあれば、代理人でも委任状なしで印鑑証明書を取得できるのが一般的だからです(印鑑証明書の取り方の記事で触れています)。

「1通だけ取ってきて」と頼んだつもりが、何通でも取れる状態を作ってしまいます。

親族間だからこそ書面を確認する

実務でトラブルになりやすいのが実は身内です。

「相続の手続き、全部やっておくから実印と印鑑証明だけちょうだい」、悪意がない場合がほとんどですが、遺産分割協議書の内容を見ないまま押印してしまうと、後から「そんな分け方だとは思わなかった」となっても覆せない可能性があります。

遺産分割協議書は、相続人全員が内容に合意したことを示す書類です。署名押印する前に、必ず全文を読んでください。 これは信頼の問題ではなく、手続きの作法です。

勤務先から求められたとき

会社が従業員の印鑑証明書を求める場面は限られます(社宅の賃貸借、車両の登録など)。

身に覚えがない、不審に思ったら必ず用途を確認するようにしてください。

渡した後に不安になったら

すでに渡してしまって不安、という場合にできることを整理します。

印鑑証明書は取り消せません。 発行された証明書を無効にする仕組みはないので、まずそこは受け入れる必要があります。

そのうえで、

  • 用途を改めて確認し、記録に残す(メールなど、後から見返せる形が望ましい)
  • 返却または破棄を求める
  • 弁護士へ相談する。不正利用の疑いがあるなら、弁護士への相談も選択肢です

安易に渡さず、渡す前に何に使用するのか?しっかり確認してください。

会社の印鑑証明書も考え方は同じ

法人の印鑑証明書(法務局で取得するもの)についても、構造は同じです。

代表者印を押した書類と法人の印鑑証明書がセットになったとき、その書類は強い証拠力を持ちます。したがって、

  • 誰が申請・保管するかの権限を決めておく
  • 用途と通数を記録する
  • 白紙の書類に代表者印を押さない

という管理が必要です。個人の実印以上に、社内の複数人が触れるぶん、ルール化しておく意味があります。

よくある質問

Q. 印鑑証明書のコピーを渡すのでもいいですか?

提出先が原本を求めるのが通常です(コピーでは改ざんの余地があるため)。逆に「コピーでいい」と言われる場面なら、そもそも印鑑証明書である必要があるのか確認してみてもよいでしょう。

Q. 印影を見られると偽造されませんか?

理論上、印影から似た印鑑を作ることは不可能ではありません。ただし、偽造印で作られた書類については、それが本人の印章によるものかが争われることになります。過度に恐れる必要はありませんが、印影をむやみに外に出さないという原則は持っておいてください。

Q. 家族が代わりに取りに行ってくれると言っています。

印鑑登録証(カード)を渡せば、委任状なしで取得できるのが一般的です。信頼できる相手であれば大丈夫と想定されますが、カードは必ず返してもらってください

Q. 提出した印鑑証明書は返してもらえますか?

手続きによります。登記などで提出したものは原則返却されませんが、原本還付の手続きにより返却を受けられる場合があります。必要なら、提出先に確認してください。

Q. 有効期限を過ぎた印鑑証明書はどうすればいいですか?

実印の印影が載った書類ですので、細断して処分してください。引き出しに溜めておくものではありません。

Q. 用途を聞いたら「疑っているのか」と言われました。

正当な手続きであれば、用途の説明は当然の説明義務の範囲です。疑問、不審に思ったら確認して問題ありません。

まとめ

  • 印鑑証明書だけでは、他人はほとんど何もできない。 実印を押した書類とセットになって初めて機能する
  • 危険なのは「実印を押した空欄のある書類」+印鑑証明書。白紙委任状、金額未記入の契約書がその典型。したがって押印する書類に要注意。
  • 印鑑証明書には住所・氏名・生年月日・印影が載り、旧氏や通称は登録していれば省略できない
  • 渡す前の確認は①用途 ②通数 ③時期 ④書類の空欄 ⑤使用後の扱い
  • 実印そのものや印鑑登録証(カード)を預けるのは大きなリスクがあるため要注意

あらゆる契約、手続きで印鑑証明書を求められること自体はまったく普通のことです。

よくわからない場合は、「何に使うんですか」と一言聞いてください。それだけで、防げるトラブルのほとんどは防げます。


※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。印鑑登録証明書の記載事項や取扱いは市区町村により異なる場合があります。不正利用の疑いがあるなど具体的なトラブルについては、弁護士にご相談ください。本記事の情報に基づく判断・行動により生じた損害について、当サイトは責任を負いかねます。

執筆者情報

樋口智大(行政書士)

アロー行政書士事務所の行政書士。
ドローン飛行許可申請や酒類販売業免許申請、古物商許可申請等の許認可取得のサポートをしています。
行政書士になってから紙・電子含めて印鑑と向き合う機会が増えました。また、酒類販売業免許をやっていると海外取引に触れる機会も多いことから、印鑑文化が海外では通用しないこと(サインが基本等)など、印に対するさまざまな経験をしたことにより、逆に興味を持つようになり、このような印鑑に関するブログを運営しております。歴史な好きなこともあり、家紋についても解説しております。