毎年秋になると勤務先から年末調整の書類が配られます。
扶養控除等申告書や保険料控除申告書に名前を書いたところで「ハンコはどこに押すんだっけ」と手が止まった人もいるのではないでしょうか。
結論からいうと、年末調整で従業員が勤務先に出す申告書に印鑑は要りません。
令和3年度税制改正で税務署に出す書類の押印義務が原則として廃止され、令和3年4月1日から押印は不要になっています。国税庁も年末調整の書類について従業員に押印してもらう必要はないと案内しています。
この記事では国税庁と財務省の公開資料や法令の条文をもとに、年末調整の書類からハンコがなくなった経緯を解説します。
あわせて押印欄が残っている様式の扱いや会社に押印を求められた場合の考え方、電子で出すときの扱い、税務の手続で今も印鑑が必要な書類も紹介します。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する税務上・法律上の助言ではありません。記事の内容は2026年10月時点の法令と国税庁・財務省の公表資料に基づいています。税制や申告書の様式は毎年のように改正されるため、最新の取扱いは国税庁ホームページでご確認ください。年末調整の書類を書面で出すか電子で出すか、社内独自の書類があるかといった運用は勤務先によって異なります。手元の書類の扱いは勤務先の担当部署に、個別の税額や控除の判断は税務署や税理士にご確認ください。本記事の内容に基づいて生じたいかなる損害についても、当サイトは責任を負いかねます。
年末調整の書類に印鑑は要らない
年末調整で従業員が勤務先に出す主な申告書は次のとおりです。いずれも押印は要りません。
| 申告書 | 何のための書類か | 押印 |
|---|---|---|
| 扶養控除等(異動)申告書 | 扶養控除・障害者控除・寡婦控除・ひとり親控除・勤労学生控除を受けるため | 不要 |
| 基礎控除申告書兼配偶者控除等申告書兼特定親族特別控除申告書兼所得金額調整控除申告書 | 基礎控除・配偶者控除・配偶者特別控除・特定親族特別控除・所得金額調整控除を受けるため | 不要 |
| 保険料控除申告書 | 生命保険料・地震保険料と、給与から差し引かれていない社会保険料・小規模企業共済等掛金の控除を受けるため | 不要 |
| 住宅借入金等特別控除申告書 | 住宅ローン控除を2年目以降に年末調整で受けるため | 不要 |
2つ目の申告書は4つの申告書を兼ねた様式で、名前が長いのはそのためです。
国税庁は令和3年分の年末調整の資料で、扶養控除等申告書などの年末調整で使う書類について、従業員に押印してもらう必要はないと勤務先向けに案内しています。
様式からも押印欄はなくなっています。
国税庁はホームページに載せている申告書の様式を順次押印欄のないものに改めると説明しています。令和8年分の年末調整の資料に収録されている令和9年分の扶養控除等申告書の記載例を見ても、氏名欄のまわりに押印欄はありません。
書類の中に出てくる「印」の字は「○印を付けてください」といった記入方法の説明くらいです。
いつから押印が不要になったのか
年末調整の書類からハンコがなくなったのは、令和3年度税制改正によるものです。
財務省の資料によると、税務署長などに提出する税務関係書類のうち納税者等の押印を求めていたものについて、原則として押印義務を廃止することとされました。施行は令和3年4月1日です。
施行日より前であっても運用上は押印がなくても改めて求めない扱いとされました。
この見直しは「規制改革実施計画」(令和2年7月17日閣議決定)を踏まえたものとされています。行政手続全体でハンコを見直す動きの中で、税務の書類も対象になったわけです。
法律としては「所得税法等の一部を改正する法律」(令和3年法律第11号)として令和3年3月31日に公布されました。
財務省が公表している法律案要綱では、国税通則法の第124条などを改正して税務署長等に提出する税務書類への押印を不要にするとされています。
現在の国税通則法第124条は、税務書類を提出する人に氏名(法人は名称)、住所または居所、番号を記載するよう定めています。押印についての定めはありません。
国税庁の「源泉所得税の改正のあらまし」(令和3年4月)でも、税務署長等に提出する源泉所得税関係の書類について押印を要しないこととされたと説明されています。
行政手続の押印については本シリーズの「古物商許可申請は押印不用?」や「酒類販売業免許申請にハンコは必要?」でも解説しています。
会社に出す書類なのに税務署のルールが関係する理由
年末調整の書類は会社に出すものなのに、なぜ税務署に出す書類の押印廃止が関係するのか?不思議に思う人もいるかもしれません。
所得税法第194条は、給与を受け取る人は扶養控除等申告書を給与の支払者を経由して所轄の税務署長に提出しなければならないと定めています。
つまり宛先は税務署長で、会社は経由する立場です。
ただ、実際には税務署長や市区町村長から特に求められた場合を除いて会社が提出する必要はなく、会社が保管することになっていると国税庁は説明しています。
基礎控除申告書などをまとめた申告書についても、税務署長から特に求められた場合以外は会社が保管するとされています。
会社の手元に置かれる書類ですが、法律上は税務署長に提出する書類です。財務省の資料でも押印義務を廃止する書類の例として「給与所得者の扶養控除等申告書」が挙げられています。
扶養控除等申告書の様式の宛先欄も「所轄税務署長等」となっています。
押印欄が残っている様式はどうする?
手元の様式に押印欄が残っている場合も、押印は要りません。
国税庁は押印欄のある様式も印刷して使えるとしたうえで、押印が必要な一部の手続を除き押印は不要だと説明しています。
押印欄のない様式に切り替わった後も、以前に入手した押印欄のある様式を使ってかまわないとしています。
うっかり押してしまった場合も出し直す必要はないと考えられます。
国税庁は押印が不要な書類に任意で押印しても差し支えないとしたうえで、押印の有無によって書類の効力は変わらないと説明しています。
会社から押印を求められたら
先ほど紹介したとおり、国税庁は年末調整の書類について従業員に押印してもらう必要はないと勤務先に案内しています。
税法の上では年末調整の申告書に押印がなくても書類の効力は変わりません。
一方で勤務先が独自に作った社内向けの書類に押印欄があることもあるかもしれません。
その場合は国税庁の申告書とは別の書類なので、社内の運用として勤務先に確認することになります。
「押すならシャチハタでいいのか」と迷った場合も、年末調整の申告書にはそもそも押印が求められていないので問題にはならないと考えられます。
電子で出すときは押印の代わりに何をするのか
最近は年末調整の書類を紙ではなくデータで出す会社もあります。
国税庁の「年末調整手続の電子化及び年調ソフト等に関するよくある質問(FAQ)」(令和8年10月改訂版)をもとに、押印にかかわる点を整理します。
- 年末調整手続の電子化は任意で、従来どおり書面で出してもよいとされています。
- 令和3年4月1日以降、勤務先が従業員から申告書をデータで受け取るのに税務署の承認は必要ないとされています。
- 年末調整の申告書をデータで出してもらうことについて、従業員から事前に承諾を受けておく必要はないとされています。一方で源泉徴収票や給与明細をデータで渡す場合は事前の承諾が必要とされています。
書面では押印を求めていた勤務先がデータで受け取る場合について、FAQは従業員が作成した申告書データに電子署名を付すかパスワードを設定して提出することになると答えています。
データで受け取る勤務先には、提出した人の氏名を明らかにするための措置が求められています。FAQではこの措置を次のいずれかとしています。
- 従業員が申告書の情報に電子署名をして、その電子証明書と一緒に勤務先に送信する
- 勤務先から通知されたIDとパスワードを使って送信する
勤務先から配られたIDとパスワードでログインして使う「社員ページ」も、この措置に当たるとされています。
FAQはこの措置について、提出されたデータが従業員本人から提出されたことを確認できるようにしておくためのものと説明しています。
なお国税庁が無償で提供している年末調整申告書の作成ソフト(年調ソフト)が出力するPDFは、書面に印刷して提出するためのファイルとされています。このPDFには氏名を明らかにする措置を講ずることはできないとされています。
源泉徴収票に会社の印鑑がないのは大丈夫?
年末調整が終わると勤務先から源泉徴収票が渡されます。
会社の印鑑が押されていないことに気づいて不安になる人もいるかもしれません。
国税庁の「令和8年分 給与所得の源泉徴収票等の法定調書の作成と提出の手引」では、源泉徴収票の支払者の欄に給与の支払者の住所(居所)または所在地、氏名または名称、電話番号、マイナンバーまたは法人番号を記載するよう説明しています。
従業員に渡す源泉徴収票にはマイナンバーと法人番号を記載しないとされています。
手引で求められている記載事項の中に押印は含まれていません。源泉徴収票に会社の印鑑がないのはそのためと考えられます。
税務の手続で今も印鑑が必要な書類
税務の書類からハンコがすべて消えたわけではありません。
国税庁と財務省の資料では、次のような書類について押印が残されています。
| 書類 | 使う場面 | 求められるもの |
|---|---|---|
| 納税保証書・抵当権設定登記承諾書など | 納税の猶予や延納などで土地等を担保にする場合や第三者が納税保証をする場合 | 実印の押印と印鑑証明書 |
| 所有権移転登記承諾書 | 相続税の物納で土地等を納める場合 | 実印の押印と印鑑証明書 |
| 遺産分割協議書など財産の分割の協議に関する書類 | 配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例などの添付書類 | 実印の押印と印鑑証明書 |
| 振替依頼書・ダイレクト納付利用届出書 | 口座から税金を引き落とす手続 | 金融機関の求めに応じた金融機関届出印(e-Taxで出す場合は不要) |
| 委任状 | 特定個人情報の開示請求や閲覧申請を代理人が行う場合 | 押印など |
| 質問調書など | 国税の犯則調査の手続 | 押印(刑事訴訟手続に準じて残された。令和9年10月1日からは電磁的記録で作成し、署名押印に代わる措置をとる方法も加わる) |
担保の提供に関する書類について、国税庁は担保を提供する人や保証人の真意を確認するための書類だと説明しています。
財務省の資料では、もともと実印の押印と印鑑証明書の添付を求めていた税務書類は引き続きそれを求めることとされています。
年末調整の申告書はこのどれにも当たりません。
実印・銀行印・認印の違いについては「実印・銀行印・認印の違いとは?」で解説しています。
税務署の受付印も押されなくなった
ハンコがなくなったのは提出する側だけではありません。
国税庁は令和7年1月から申告書等の控えに収受日付印を押さないことにしました。
以前は税務署に申告書を出すときに控えを持っていけば、受け付けた日付の入ったハンコを押してもらえました。それがなくなったわけです。
対象は国税庁・国税局・税務署に提出される全ての文書とされています。
国税庁は、必要に応じて自分で控えを作って提出した年月日を記録・管理するよう求めています。
当分の間の対応として、窓口では希望する人に受け付けた日付と税務署名を書いたリーフレットを渡すとしています。
e-Taxで出した場合はメッセージボックスの受信通知で受付日時を確かめられます。
国税庁は金融機関や補助金の担当機関などに対しても、令和7年1月以降は収受日付印の押された控えを求めないよう周知しているとしています。
年末調整の書類は勤務先に出すものなのでこの話は直接関係しませんが、確定申告をする人は覚えておくとよいでしょう。
令和8年分の年末調整で押印より気をつけたいこと
押印廃止に伴って中身の確認に気を配りたいところです。
国税庁によると、令和8年分は基礎控除の引上げや給与所得控除の最低保障額の引上げ、扶養親族等の所得要件の改正などが行われています。
改正によって新たに扶養親族を有することになった場合なども、異動申告書の提出が必要とされています。
また令和9年分の扶養控除等申告書の記載例では、前年に出した申告書から記載事項に異動がない場合は、異動がない旨を記載した申告書を出せるとしています。勤務先の指示でこの「簡易な申告書」を出せる場合は、専用の記載例を確認するよう案内しています。
どの様式で出すかは勤務先から配られた書類と案内に従うのが確実です。
まとめ
年末調整で従業員が勤務先に出す扶養控除等申告書、基礎控除申告書などをまとめた申告書、保険料控除申告書、住宅借入金等特別控除申告書には押印は要りません。
令和3年度税制改正で国税通則法第124条などが改正され、令和3年4月1日から税務署長等に提出する税務書類への押印が原則として不要になりました。
年末調整の申告書は会社が保管するものの、法律上は会社を経由して税務署長に提出する書類で、財務省の資料でも押印義務を廃止する書類の例に扶養控除等申告書が挙げられています。
押印欄のある様式でも押印は要らず、押してしまっても書類の効力は変わりません。
データで出す場合は押印の代わりに電子署名やIDとパスワードで提出した人を明らかにします。
今も実印と印鑑証明書が求められるのは、担保の提供や相続税の物納、遺産分割協議書など一部の書類に限られています。
税務署の側でも令和7年1月から申告書の控えに収受日付印を押さなくなりました。
年末調整の書類からハンコが消えたのは、出す側と受け取る側の両方でハンコを使わなくなっていく流れの一つといえそうです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する税務上・法律上の助言ではありません。記事の内容は2026年10月時点の法令と国税庁・財務省の公表資料に基づいています。税制や申告書の様式は毎年のように改正されるため、最新の取扱いは国税庁ホームページでご確認ください。年末調整の書類を書面で出すか電子で出すか、社内独自の書類があるかといった運用は勤務先によって異なります。手元の書類の扱いは勤務先の担当部署に、個別の税額や控除の判断は税務署や税理士にご確認ください。本記事の内容に基づいて生じたいかなる損害についても、当サイトは責任を負いかねます。
参考・出典
- 国税庁「税務署窓口における押印の取扱いについて」 https://www.nta.go.jp/information/other/data/r02/oin/index.htm
- 国税庁「税務署窓口における押印の取扱いについて(別紙1)」 https://www.nta.go.jp/information/other/data/r02/oin/pdf/02.pdf
- 国税庁「税務署窓口における押印の取扱いについて(別紙2)」 https://www.nta.go.jp/information/other/data/r02/oin/pdf/03.pdf
- 財務省「令和3年度改正関係資料(納税環境整備関係)」 https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/tins/r3kaiseinoukan.pdf
- 財務省「所得税法等の一部を改正する法律案要綱」(第204回国会) https://www.mof.go.jp/about_mof/bills/204diet/st030205y.htm
- 財務省「令和8年度税制改正の解説(国税通則法等の改正)」 https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2026/explanation/PDF/p0887-0920.pdf
- e-Gov法令検索「国税通則法」 https://laws.e-gov.go.jp/law/337AC0000000066
- e-Gov法令検索「所得税法」 https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000033
- 国税庁「源泉所得税の改正のあらまし(令和3年4月)」 https://www.nta.go.jp/publication/pamph/gensen/0021004-072.pdf
- 国税庁「令和4年版 源泉徴収のあらまし(税制改正等の内容)」 https://www.nta.go.jp/publication/pamph/gensen/aramashi2021/pdf/01.pdf
- 国税庁「令和3年分 年末調整のしかた(Ⅰ 昨年と比べて変わった点)」 https://www.nta.go.jp/publication/pamph/gensen/nencho2021/pdf/04-05.pdf
- 国税庁「A2-1 給与所得者の扶養控除等の(異動)申告」 https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/gensen/annai/1648_01.htm
- 国税庁「A2-4 給与所得者の基礎控除、配偶者(特別)控除、特定親族特別控除及び所得金額調整控除の申告」 https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/gensen/annai/1648_73.htm
- 国税庁「給与所得者(従業員)の方へ(令和8年分)」 https://www.nta.go.jp/users/gensen/nencho/index/kyuyosyotokusya.htm
- 国税庁「令和8年分 年末調整のしかた」 https://www.nta.go.jp/publication/pamph/gensen/nencho2026/01.htm
- 国税庁「令和8年分 年末調整のしかた(Ⅰ 昨年と比べて変わった点(基礎控除の引上げ等))」 https://www.nta.go.jp/publication/pamph/gensen/nencho2026/pdf/102.pdf
- 国税庁「令和8年分 年末調整のしかた(2 各種控除額の確認)」 https://www.nta.go.jp/publication/pamph/gensen/nencho2026/pdf/105.pdf
- 国税庁「令和8年分 年末調整のしかた(2-2 基礎控除申告書、配偶者控除等申告書、特定親族特別控除申告書及び所得金額調整控除申告書の受理と内容の確認)」 https://www.nta.go.jp/publication/pamph/gensen/nencho2026/pdf/106.pdf
- 国税庁「令和9年分 給与所得者の扶養控除等申告書の記載例」 https://www.nta.go.jp/publication/pamph/gensen/nencho2026/pdf/309.pdf
- 国税庁「年末調整手続の電子化及び年調ソフト等に関するよくある質問(FAQ)(令和8年10月改訂版)」 https://www.nta.go.jp/users/gensen/nenmatsu/pdf/nencho_faq.pdf
- 国税庁「令和8年分 給与所得の源泉徴収票等の法定調書の作成と提出の手引」 https://www.nta.go.jp/publication/pamph/hotei/tebiki2026/index.htm
- 国税庁「令和8年分 給与所得の源泉徴収票等の法定調書の作成と提出の手引(第2章 給与所得の源泉徴収票(給与支払報告書))」 https://www.nta.go.jp/publication/pamph/hotei/tebiki2026/PDF/02.pdf
- 国税庁「令和7年1月からの申告書等の控えへの収受日付印の押なつについて」 https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/onatsu/index.htm

