墓石や仏壇で見つけた紋がハート型の葉が三枚、放射状に並んだ形だったなら。
それはおそらく片喰紋(かたばみもん)です。
日本でもっとも広く使われている家紋のひとつで、桐・藤・木瓜・鷹の羽と並んで五大家紋に数えられます。とりわけ「丸に剣片喰」は、数ある家紋のなかでも定番中の定番です。
そしてこの紋のモチーフになっているカタバミは、庭や道端に生える雑草です。
なぜ雑草が、これほど多くの家のしるしになったのか。
この記事では、見分け方から由来まで解説します。

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。家紋の由来や使用家については諸説があり、資料によって説明が異なる場合があります。実際の発注などにあたっては、印章店や紋章の専門店にご確認ください。
まずこれが片喰紋の特徴
特徴は次の3点です。
- ハート型の葉が3枚、中心から放射状に並ぶ
- 葉のくぼみが外を向く(尖ったほうが中心に集まる)
- 葉脈などの細かい描写はなく、輪郭だけで構成される
この形が確認できれば、片喰紋と考えてよいでしょう。

よく見る3つのかたち
片喰——葉が3枚だけの基本形です。
剣片喰(けんかたばみ)——葉と葉のあいだに、剣が3本入ります。武を尊ぶ「尚武」の意味が加えられたものとされ、武家に好まれました。
丸に剣片喰——剣片喰の外側を丸が囲んだもの。片喰紋のなかでもっとも普及した形のひとつです。
見分けるときは、外側から順に見ていくと迷いません。丸はあるか。剣はあるか。葉は何枚か。この順で確認すれば、そのまま名前になります。
「片喰かもしれない」と思ったら

自信が持てないときは、似た紋と比べてみてください。
蔦(つた)は、葉が1枚で先が5つに分かれます。3枚に分かれて見えるなら、片喰の可能性が高い。
木瓜(もっこう)は、外郭のなかに花のような形が入るもので、ハート型の葉ではありません。
沢瀉(おもだか)は、矢じりのような細長い葉です。
迷ったら、葉の枚数を数えるのがいちばん早い判別法です。
そのうえで、名前は「丸はあるか+剣はあるか+モチーフ」の順に言葉にしていけば組み立てられます。丸があって剣があれば「丸に剣片喰」。この言葉でそのまま画像検索すれば、手元の紋と照合できます。
(家紋の名前の組み立て方については、別記事で詳しく解説しています)
カタバミという植物
カタバミは、カタバミ科の多年生植物です。ハート型の三枚葉を持ち、黄色い五弁の花をつけます。山野、農地、道端——日本中どこにでも自生しています。
名前の由来は、その葉の動きにあります。
カタバミは強い日差しの下や夜になると、葉を折りたたみます(就眠運動)。その姿が半分食いちぎられたように見えることから、「片食み」が転じて「片喰」になったという説があります。
もうひとつ、「酢漿草」という表記も使われます。こちらは葉や茎を噛むと酸味があることから。この酸味の正体はシュウ酸です。
そしてこのシュウ酸には、金属のサビを落とす働きがあります。鏡がまだ真鍮や鉄でできていた時代、カタバミは鏡を磨くために使われました。そこから「鏡草」「銭みがき」という別名も生まれています。
鏡は神と人をつなぐものとして神聖視され、御神体とされることも多い道具です。そのため片喰紋は、公家や武家だけでなく、神職や社家にも用いられたとされます。雑草が神事の道具に結びついていたというのは、意外な話ではないでしょうか。
なぜ雑草が家紋になったのか
ここが、この紋のいちばん面白いところです。
カタバミは、しぶといのです。
地面に強く根を張り、繁殖力が高く、人や動物に踏まれても何度でも立ち上がる。しかも地下部分が残っていれば再生するため、完全に取り除くには一面を深く掘り返す必要がある。園芸をする人にとっては、まさしく厄介な雑草です。
その厄介さが、そのまま願いに転じました。
絶やそうとしても絶えない。踏まれても立ち上がる。
これを家に重ねれば、「家が絶えない」「子孫が繁栄する」という意味になります。家運長久、子孫繁栄。 これほど的確なモチーフは、そうそうありません。
次の日本の家紋になぜ植物が多いのかという記事にも書きますが、ヨーロッパの紋章が獅子や鷲を選んだのに対し、日本は道端の草を選んだ。その理由のひとつが、まさにこれです。強さの誇示ではなく、続くことへの願い。 片喰紋は、その考え方をもっとも素直に表した紋だと言えます。
片喰紋を使った家
片喰紋は、公家・武家を問わず広く使われました。
武家の代表例としてよく挙げられるのが、土佐の長宗我部氏、備前の宇喜多氏、そして徳川四天王のひとり酒井忠次で知られる酒井氏(左衛門尉家)です。源氏の名門である新田氏も、引両紋とは別に片喰紋を用いたとされます。
平安・鎌倉期には車紋としても採用されていたといい、公家の世界にも早くから入っていました。
ただし、ここは注意してください。あなたの家が片喰紋だからといって、これらの家の子孫だとは限りません。 片喰紋はあまりに広く使われた紋で、由来をたどれる家のほうが少数です。この点は、家紋の丸の意味を書いた記事でも触れたとおりです。
片喰紋の種類は非常に多い
片喰紋には、膨大なバリエーションがあります。
- 丸で囲む(丸に片喰、丸に剣片喰)
- 剣を加える(剣片喰)
- 数を変える(三つ盛り片喰など)
- 葉の枚数を変える(一葉、二葉、四葉のものも存在します)
- 線描きにする(陰片喰)
- 蔓を組み合わせる
- まれに、花や実がついたもの
『名字・家紋大事典』には、片喰紋のバリエーションが240種類以上、5,000紋以上あるという記述があります。一つの紋種だけで、これだけの変奏が生まれているわけです。
したがって、「うちは片喰」で止めず、丸の有無、剣の有無、葉の枚数まで確定させてください。
発注するときの注意
墓石を建てる、紋付を仕立てる、印鑑に入れる。そういう場面で、この確定作業が効いてきます。
「片喰」と「剣片喰」と「丸に剣片喰」は、それぞれ別の紋です。取り違えれば、別の家の紋が刻まれることになります。石に彫ってしまってからでは直せません。
発注前にやることは3つです。
- 墓石や紋付を正面から鮮明に撮影する
- 丸・剣・葉の枚数を確認して、正式名称を確定する
- 自信がなければ、写真を印章店や石材店に見てもらう
家紋を扱い慣れた店であれば、写真から判別してくれます。
なお、家紋を印鑑に入れたい場合は、入れる位置によって実印にできるかどうかが変わります。この点は別記事で解説しています。
まとめ
- 片喰紋は、ハート型の葉が3枚、くぼみを外に向けて放射状に並んだ紋。五大家紋のひとつ
- 見分けるときは外側から。丸はあるか、剣はあるか、葉は何枚か
- モチーフのカタバミは道端の雑草。夜に葉を閉じる姿から「片喰」、噛むと酸っぱいことから「酢漿草」
- シュウ酸で鏡を磨いたことから「鏡草」とも呼ばれ、神職や社家にも用いられた
- 家紋になった理由は、踏まれても絶えない繁殖力。家運長久と子孫繁栄の願い
- 長宗我部氏、宇喜多氏、酒井氏、新田氏などが使用。ただし同じ紋でも同じ家系とは限らない
- バリエーションは240種類以上。丸・剣・葉の枚数まで確定してから発注する
庭で抜いても抜いても生えてくる草を見て、昔の人は「うちの家もこうありたい」と考えた。
家紋というものの発想が、この一点によく表れていると思います。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。家紋の由来や使用家については諸説があり、資料によって説明が異なる場合があります。実際の発注などにあたっては、印章店や紋章の専門店にご確認ください。
