墓を建てる、紋付を仕立てる、家族の記録を残す。
そんなきっかけで「うちの家紋って何だろう」と思うこともあるかと思います。
家紋は「家」に伝わっているものなので、同じ名字でも家ごとに違う紋を使っています。なので、ネット検索等で名字と家紋を調べても、出てきたものがあなたの家の家紋かどうかはわかりません。
では、どうやって家紋を調べるのか。
答えはシンプルで、自分の家に残っている痕跡を探すしかないのです。そして幸いなことに、その痕跡はかなりの確率で身近な場所に残っています。
この記事では、費用をかけずにできる調べ方を優先順位の高い順に5つ紹介します。
また、戸籍を使って先祖の土地を辿る方法とその際の注意点も解説します。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。戸籍請求の取扱い(広域交付の対象範囲、手数料、必要書類など)は市区町村や時期により異なります。実際のお手続きの際は、各市区町村の公式情報をご確認ください。本記事の情報に基づく判断・行動により生じた損害について、当サイトは責任を負いかねます。
大前提として家紋には登録制度がない
方法の前に、この点を押さえておくと理解が早くなります。
家紋を管理している役所は存在しません。
戸籍のように国が記録しているわけでも、商標のように登録できるわけでもありません。
どこかに問い合わせれば「あなたの家の家紋は○○です」と教えてもらえる窓口は、日本のどこにもないのです。
家紋は、家から家へ、物と口伝えで受け継がれてきただけのものです。
だからこそ、
- 調べる=家に残った物証を探すという作業になる
- 途絶えることもある(誰も知らなくなったら、その時点で分からなくなる)
- 逆に、新しく定めることも自由(後述します)
「名字から分かる」という誤解を捨てて、「家に残っているものを探す」に切り替えることが、遠回りに見えていちばんの近道です。
なお、名字と家紋の対応表を掲載しているサイトが役に立たないわけではありません。あくまでその名字に多い傾向を示しているだけで、あなたの家の紋を保証するものではない、という位置づけで参考にしてください。
家紋が残っている場所——探す優先順位
方法① お墓を見る——もっとも確実

最初に確認すべきはお墓です。現代の日本で家紋がもっとも高い確率で残っているのは墓石だからです。
見る場所は4つあります。
- 竿石(正面に立つ縦長の石)の上部
- 水鉢(花立の間にある水を入れる部分)の正面
- 香炉(線香を置く部分)
- 外柵や墓誌
墓石には風化や苔で見えにくくなっていることもあるので、正面からと斜めからの両方で写真を撮っておくと、後で拡大して確認できます。
なお、家紋が刻まれていない墓もあります。
近年の墓や、宗派によっては紋を入れない場合もあるためです。ない場合は次の方法へ進んでください。
方法② 仏壇まわりを探す
自宅、または本家の仏壇周辺は、家紋の宝庫です。
- 仏壇の扉の内側や欄間、上部に掛ける幕
- 位牌(台座に入っていることがあります)
- 仏具、鈴、燭台
- 提灯(お盆に使う家紋入りの提灯が残っている家は多い)
- 自宅にある過去帳の表紙(お寺の過去帳とは別物。家庭用の記録帳です)
とくに提灯は、盆の時期だけ出して普段は箱に入っている家が多いので、押し入れや納戸を探してみてください。
方法③ 着物や布物を確認する
冠婚葬祭の衣装には、家紋が入っています。
- 紋付羽織袴(男性の礼装。背中・両袖・両胸に五つ紋)
- 黒留袖・喪服(女性の礼装)
- 帯、風呂敷、袱紗(ふくさ)
ここで一点、注意があります。貸衣装やレンタルの紋付に入っているのは自家の紋ではありません。 貸衣装には「通紋(かよいもん)」と呼ばれる、誰でも使える汎用の紋(五三桐など)が入っているのが一般的です。
祖父母の代に自前で仕立てた着物であれば、自家の紋である可能性が高いといえます。
方法④ 親族に聞く——聞き方にコツがある
物が見つからないときは、人に聞きます。優先すべきは次の人たちです。
- 本家の当主(分家より本家に残っている)
- 一族の最年長者
- 葬儀や法事を仕切ったことのある人(墓や仏具の発注をしている)
家紋の名前を正確に覚えている人は多くありませんので、「丸に何かの葉っぱ」といった曖昧な記憶でも、後で家紋一覧と照合すれば特定できますのでまずは形の情報を引き出してください。
写真があればそれを見せる、あるいは見せてもらうといいでしょう。
方法⑤ 業者の記録を当たる——意外な盲点
これは見落とされがちですが、墓石を建てた石材店には、彫刻の図面や注文書が残っていることがあります。
家紋は石材店が勝手に決めるものではなく、注文時に施主が指定します。つまり、発注時のやりとりの記録には家紋の情報が含まれているわけです。10年、20年前の記録でも保管している石材店は珍しくありません。
同様に、
- 紋付や留袖を仕立てた呉服店(紋を入れる作業があるため控えが残っていることがある)
- 仏壇店・仏具店(提灯や仏具に紋入れをした記録)
お墓を建てた石材店の名前は、墓石の側面や裏面に彫られていることが多いので、そこから連絡先を調べられます。
戸籍を使って先祖の土地を辿る
ここまでの方法で見つからない場合、次の段階は「先祖が住んでいた土地を特定して、そこを訪ねる」という調査になります。
家紋は土地と結びついていることが多く、先祖の本籍地に行けば、同じ紋を使う同姓の家や、一族の古い墓地が残っていることがあるからです。
そのための第一歩が、戸籍を辿って古い本籍地を突き止めることです。

令和6年3月から便利になりました
戸籍法の改正により、令和6年3月1日から「広域交付」という仕組みが始まりました。
これまでは本籍地の市区町村にしか請求できなかった戸籍謄本が、最寄りの市区町村の窓口で、全国各地の分をまとめて請求できるようになったのです。本籍地が遠方にある方には、大きな変化です。
対象となるのは、戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍謄本(いずれも全部事項証明)です。
ただし、家紋調査では制約が大きい
正直に書きます。家紋を調べたい人にとって、広域交付はそれほど万能ではありません。
理由は4つあります。
1. 電子化されていない古い戸籍は取れない
これがいちばん大きな壁です。広域交付はデータで連携する仕組みなので、紙のまま保管されている古い戸籍は対象外とされています。
ところが、家紋調査で本当に見たいのは、明治期の古い改製原戸籍や除籍謄本です。そこにこそ「先祖がどこの村にいたか」が書かれている。つまり、いちばん欲しい戸籍ほど広域交付では取れない可能性が高いわけです。その場合は、従来どおり本籍地の市区町村に郵送で請求することになります。
2. 請求できる範囲が限られる
広域交付で請求できるのは、本人・配偶者・直系尊属(父母、祖父母など)・直系卑属(子、孫など)の戸籍だけです。兄弟姉妹の戸籍は請求できません。
家系の調査では傍系にも広げたくなりますが、そこは対象外です。
3. 代理人請求と郵送請求ができない
請求できる本人が、自分で窓口に行く必要があります。家族に頼むことも、郵送で済ませることも基本的にできません。
4. 本人確認が厳格
顔写真付きの公的な本人確認書類(マイナンバーカード、運転免許証、パスポートなど)が必要です。健康保険の資格確認書などでは受け付けられません。
また、戸籍の附票は広域交付の対象外で、これまでどおり本籍地への請求になります。
実際の進め方
現実的な手順はこうなります。
- まず自分の戸籍謄本を取り、両親の本籍地を確認する
- さかのぼって、父母・祖父母の戸籍(除籍謄本・改製原戸籍)を請求する
- 取れる分は最寄りの窓口で広域交付を使い、取れなかった分は本籍地の市区町村へ郵送請求する
- 記載されている古い本籍地(「〇〇県〇〇郡〇〇村〇〇番地」など)をメモしていく
郵送請求の場合は、請求書・本人確認書類のコピー・返信用封筒・定額小為替(郵便局で購入する手数料の支払い手段)を同封するのが一般的です。手数料や必要書類は市区町村により異なるので、各市区町村のホームページで確認してください。
古い地名は市町村合併で変わっていることが多いので、現在のどこに当たるかは、法務局や市区町村、あるいは地名の変遷を調べられる資料で確認します。
現地でできること
現地でできることがあります。
- その集落の共同墓地を見る(同姓の墓が並んでいれば、家紋が確認できます)
- 地域の郷土資料館・図書館の郷土資料コーナー(旧家の記録が載っていることがあります)
- 地元の石材店(その地域の家紋事情に詳しいことがあります)
ただし、他家の墓を撮影したり、私有地に立ち入ったりすることのないよう、節度は必要です。
期待しないほうがいいこと——お寺の過去帳
「先祖を調べるならお寺の過去帳を見せてもらいましょう」と書いてあるサイトがありますが、現在これは基本的にできません。
理由は、単なる寺院の方針ではなく、宗派として明文の基準が定められているためです。
たとえば曹洞宗は、過去帳等には檀信徒のプライバシー情報が記されているとして、住職以外の閲覧禁止はもとより、檀信徒からの依頼であっても、宗教目的以外の単なる先祖探しや家系図作成のための求めは断るようにと示しています。浄土真宗本願寺派にも「過去帳又はこれに類する帳簿の取扱基準」という総局告示があり、身元調査に利用されないよう厳重に管理する義務が定められています。
背景には、過去帳の情報が身元調査に悪用された過去があります。個人の出自に関する情報が差別につながった経緯があり、宗派として厳格な取扱いを求めるようになったのです。
したがって、お寺に過去帳の閲覧を求めるのは、住職を困らせるだけの結果になりがちです。ましてや「見せてもらう方法」を探すべきではありません。
菩提寺との関係でできるとすれば、自家の墓所や、位牌堂に自家の紋が残っていないかを確認させてもらうといったところまでです。それでも、まずは丁寧に事情を説明することが前提になります。
どうしても分からないときは——「決めてよい」
一通り探しても見つからない。そういうケースは実際にあります。
そのときの結論はシンプルです。新しく決めて構いかと思います。
冒頭に書いたとおり、家紋には登録制度も、使用を規制する法律もありません。皇室の紋章など一部に特別な扱いがあるものを除けば、どの紋をどう使おうと自由です。
実際、家紋を決める場面は今でも普通にあります。
- 墓を建てるとき、石材店に「紋はどうしますか」と聞かれる
- 紋付を仕立てるとき、呉服店に聞かれる
- 分家として、新たに家を興したとき
このとき、多くの家が「母方の紋を使う」「縁のある紋を選ぶ」「五三桐などの通紋にする」といった選択をしています。
なお、家紋には女紋(おんなもん)といって、母から娘へ女性の系統で受け継がれる紋の風習が、主に西日本の一部にあります。家の紋とは別に、女性の持ち物にはこちらを入れるという習慣です。ご実家がそうした地域であれば、母方の紋も確認してみてください。
大切なのは、決めた紋を家族で共有して記録に残すことです。 今回あなたが苦労したのは、前の世代が記録を残さなかったからでもあります。写真を撮り、紋の正式名称を調べ、家族が見られる場所にメモしておく。それだけで、次の世代は同じ苦労をしなくて済みます。
よくある質問
Q. 役所に問い合わせれば家紋は分かりますか?
分かりません。家紋を記録・管理している公的機関は存在しないためです。戸籍にも家紋は記載されていません。
Q. 家紋の名前が分かりません。形は分かるのですが。
家紋一覧(分類別のもの)で、モチーフから絞り込むのが早道です。植物、動物、器物、自然、文様、文字といった大分類があり、たとえば「丸の中に三つの葉」なら片喰紋や酢漿草系を当たる、という探し方になります。
Q. 有料の家紋調査サービスは使うべきですか?
まず本記事の方法を試してから判断してください。墓と仏壇と親族で見つかることが大半で、そこで見つかれば費用はゼロです。それでも分からず、どうしても先祖の土地まで辿りたい場合に、専門業者を検討する順序が合理的です。
Q. 分家なので本家と紋が違うかもしれません。
分家が本家と同じ紋を使うことも、少し変えて使うこともあります(丸を付ける、向きを変えるなど)。まずは自家の墓や仏壇を確認し、そのうえで本家に聞くのが確実です。
Q. 母方の家紋を使ってもいいですか?
差し支えありません。前述のとおり規制はなく、女紋のように母系で受け継ぐ風習もあります。
Q. 家紋が分かったら、何に使えますか?
墓石、仏具、紋付、袱紗のほか、家紋入りの印鑑を作ることもできます(家紋入りの印鑑を実印として登録できるかは、印鑑登録の規格との関係があるため、別記事で解説します)。
まとめ
- 名字から家紋は特定できない。 家紋は姓ではなく家に伝わるもの
- 家紋を管理する役所は存在しない。調べる=家に残った物証を探す作業
- 探す優先順位は、①墓 →②仏壇まわり →③着物 →④親族 →⑤石材店・呉服店の記録
- 貸衣装の紋(通紋)は自家紋ではないので注意
- 先祖の土地を辿るなら戸籍。令和6年3月から広域交付が始まったが、電子化されていない古い戸籍は対象外で、結局は本籍地への郵送請求になることが多い
- お寺の過去帳の閲覧は期待しない。 宗派として明文の取扱基準があり、先祖探し目的の閲覧は断る方針が示されている
- 見つからなければ新しく決めてよい。ただし、決めた紋は必ず記録に残す
家紋を調べる作業は、実のところ「家に何が残っているかを確認する作業」でもあります。仏壇の奥や押し入れの箱を開けてみると、家紋以外にも思いがけないものが出てくるはずです。そちらのほうが収穫かもしれません。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。戸籍請求の取扱い(広域交付の対象範囲、手数料、必要書類など)は市区町村や時期により異なります。実際のお手続きの際は、各市区町村の公式情報をご確認ください。本記事の情報に基づく判断・行動により生じた損害について、当サイトは責任を負いかねます。
